<山本さん死亡>「報道で戦争止める」願い

morinobu20072012-08-21

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<山本さん死亡>「報道で戦争止める」願い…記者育成も意欲


 内戦が続くシリアで取材中に戦闘に巻き込まれたジャーナリスト、山本美香さん(45)は、世界各地の紛争地に積極的に取材に出かけるだけではなく、大学の講師として後進を育てることにも熱心だった。まだ若い先輩ジャーナリストの死に、学生たちは無念の思いをかみしめていた。

 山本さんは08年春から年2〜3回、早稲田大大学院でジャーナリスト志望の学生向けの「ジャーナリズムの使命」の講師を務めていた。講義では、取材した世界の紛争地の映像を紹介しながら、CS放送「朝日ニュースター」記者を経て独立した自身の生き方についても語った。

 最後となってしまった5月16日の講義「戦争とメディア」では、受講した政治経済学部の学生約150人全員が感想文を提出した。

 山本さんは約1週間後、講義中に寄せられた質問に答える形で「講義後のメッセージ」を学生に配った。
 山本さんは「報道で戦争は止められるのか?」という質問を一番に挙げ、「そういう願いがあるからこそ続けられる」と記した。
 「悲惨な状況を見て冷静でいられるのはなぜか」との問いには、「冷静ではありません」「現場で感じる恐怖心を忘れないようにしたい」と、揺れる胸の内を明かした。
 メッセージの最後はこう結ばれていた。「社会にはさまざまな考え、職業、立場の人たちがいます。メディアの世界に身を置くと、力を持っていると勘違いしてしまうことがあります。高みから物事を見るのではなく、思いやりのある、優しい人になってください」
 朝日ニュースター時代の91年、長崎・雲仙普賢岳の噴火災害を取材したことが転機だったという。「突然大切な人を失うのは災害も紛争も同じ。自然に紛争報道につながっていった」と先月のNHKの番組で語っていた。
 山本さんに講師を依頼した大学院政治学研究科の瀬川至朗教授(ジャーナリズム論)は「一方的に考えを述べるのではなく、学生に議論させることができる人だった。よりよいジャーナリズムを一緒に考えてもらえる存在だった」と惜しんだ。
 学生たちにも悲しみが広がった。中国から留学している大学院生、趙芸(ちょうげい)さん(23)は「山本先生は『行ってみないと何が起きているかは分からない』と話していた。その現場で亡くなり、先生も悔しかっただろうし、私も悔しい」と話した。同じく中国籍の大学院生でジャーナリスト志望の房満満(ぼうまんまん)さん(22)も「女性として戦争を取材する山本さんを心強く感じていたのに、今回のニュースはあまりにも悲しい」と肩を落とした。【福島祥】