暮らしどうなる!? 2011統一選

morinobu20072011-04-18


【暮らしどうなる!? 2011統一選】(上)地方の貧困

母子生活支援施設では、母親が働いている間の子供のケアなどを行い、母子の自立に向けて支援する。しかし、働き続けても賃金が上がらず、自立に結びつかないケースもある 
 □伸び悩む子育て世代の給与
 ■安定した職場を求めて
「貯金なんてとてもできない。ここを出ると生活は成り立ちません」
 包装紙メーカーの会社員、野口恵美さん(42)=仮名=は4年前に離婚し、山陰地方の市にある母子生活支援施設で2人の子供と暮らしている。子供が病気のときは施設の職員に看病を頼み、休まず働き続ける。機械作業が多く、ハンドクリームを塗っても手のあかぎれが治らない。
 5年間正社員として勤めても厚生年金保険料、健康・介護保険料などを差し引くと、手取りは月約12万円。市からは児童扶養手当(全額の約4万6千円)を受け、子ども手当と合わせて月約18万円にはなる。しかし、「保育士になりたい」という高校1年の長女(15)、小学1年の長男(6)の進学資金や学資保険料などの支払いで、食費などで使えるのは月々3万円ほど。親子で泊まりがけの旅行に出かけたことは一度もなく、「いつになったら生活に余裕ができるのか」と疲れた表情だ。
 ◆少ない求人
 厚生労働省の「平成18年度全国母子世帯等調査結果報告」によると、母子家庭の84・5%で母親が就業。平均年間就労収入は常勤で257万円、パートで113万円と少ない。野口さんが住む市は平均を下回り、市の福祉担当者は「10万円でも給与があるのはいい方。土日休みで午前9時から午後5時までの仕事はなく、多くの人はパートで月収7万〜8万程度。施設に入らず、賃貸住宅で生活している人はもっと苦しい」。
 19年4月に1・05倍あった有効求人倍率(全国)はリーマンショックで落ち込み、今年2月でも0・62倍と低水準のまま。もともと厳しかった母子世帯の収支は、さらに厳しい状況に置かれている。
 ◆震災の余波
 給与の伸び悩みは母子世帯だけの問題ではなく、20、30代の子育て世帯にも共通する。
 全国で最も人口の少ない鳥取県(3月1日現在、約58万人)の最低賃金は時給642円。3月初旬、県内にあるハローワークには早朝から大勢の人が訪れ、求人票をチェックしていた。その中で、4歳と0歳の子供がいる主婦(36)はパートの仕事を探していた。観光業界で働く夫の手取りは月約15万円。入社3年目で土日のない不規則な仕事だが、ボーナスは約4万円程度。主婦は「仕事をしないと生活できない。子供を保育園に預けて働きたい」。
 さらに職を不安定にさせているのが、東日本大震災の影響だ。ハローワークの職業相談担当者は「観光業は自粛モードでPRもできず、『仕事がないので転職したい』という相談もある」と危機感を募らせる。部品が調達できなくなった情報通信関連の製造工場は、稼働はしているもののワークシェアリングによる短時間勤務にシフトした。「事態が長引けば、このまま雇用調整(解雇)があるのでは」と警戒する。
 24日に投票が行われる統一地方選後半戦では、最も身近な地域代表が決まる。子育て世代を中心に暮らしの課題を2回に分けて報告する。
 ■国、自治体も対策
 子育て世代が望む安定した職場を確保するため、国も自治体も対策に乗り出している。国は雇用対策の一環として、自治体の企業誘致を進める企業立地促進法を平成19年に施行。市町村と協力し47都道府県すべてで基本計画を策定し、179の地域プロジェクトを進める。
 鳥取県米子市の場合は昨年度、県と協力し、世界シェア6割を占めるコンデンサー製造企業と電気自動車などを製造する企業の2件の工場誘致を相次いで成功させた。常勤社員を1人雇うごとに100万円の補助金を支払うなどの強力な誘致策を市独自で決め、5年先には約900人の雇用を確保する計画だ。
 大江淳史・経済戦略課長(54)は「誘致のための初期投資の回収には13年かかるが、産業がなければ未来はない。次世代を担う子供たちのために、将来性のある職場を作ることが自治体の責務」と力を込める。
 雇用環境の悪化は税収の減少と生活保護世帯を増加させ、やがては自治体財政を圧迫する。自ら競争力をつけ企業誘致することで税収と人口を確保しなければ地方自治体は立ちゆかなくなる。
 市も議会も危機感を共有している。